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久々の小話です。
っていうかもうここに登場すること自体が久しぶりすぎるっていう…。
はい、すみません…。
今回は、ライルとニールのお話。
いつか書こう書こうと思ってて、やっと形にできました。
シリアスです。でもケンカはしてません。笑。
*****
本当に久しぶりに、兄と再会した。
ミス・スメラギには、久々の兄弟水入らずね、なんてからかわれた。
「よ、久しぶり」
会ったら絶対に殴ってやるとか、どんな文句をぶつけてやろうとか色々と思ってたのに。
そんな風にあっけらかんとした表情で来られたら、全部吹っ飛んでしまった。
楽園
紅茶や軽食が並ぶテーブルを兄と囲った。
いい歳した野郎二人がアフタヌーンティーか。ここは普通酒だろう。
心の内でぶつぶつと文句を言いながらも、それらは口に出ることはなかった。
紅茶の香りを心地よさそうに楽しむ兄を見てたら、そんな気も失せてしまう。
色々な話をした。
小さい頃のこととか、でっかくなってからのこととか。
ぽつりぽつりと、兄の笑みに促されるように溢した。
「そうそう、そうだった。ジュディって子だった。ライルと俺のこと完全に間違えてたんだ」
「俺あの瞬間に本気で兄さんのこと嫌いになったよ」
「はは。そっか、ごめんな」
心の中で少しずつ、でも積もり積もっていた感情を、ぽろりぽろりと、溢した。
俺の文句を、兄は「うん、そっか、ごめんな」と穏やかに、でも少し寂しそうに笑いながら謝っていた。
色々な話を、した。
今まで話せなかったことを、本当にたくさんたくさん話した。
たぶんきっと、ずっと前から俺は、こうしたかったのだ。酒でも紅茶でもなんでもいいから囲って、兄と二人、色々な話をしたかったのだ。色々なことを、聞いてほしかったのだ。
話はやがて、必然的にソレスタルビーイングのことになった。
「みんな、諦めないで戦ってたよ」
「うん、知ってる」
「世界がわかり合うためにって、ただその為だけに。アイツが、そう望んでたから…」
「うん」
「刹那の抜けた穴は、やっぱデカかった。アイツに頼り続けてたんだなって、実感した…」
「うん」
ちらりと、視線を動かした。
視界に入ってきたのは、ほわりとした真白い雲に立つ、旧式のデザインのテレビだった。
そこに映されていたのは、開発中だった外宇宙艦が、まもなく完成を迎えるというニュース映像だった。
ずしりと気持ちが重くなって、紛らわすように、ぐい、と紅茶を飲み干した。
優しい花の香りがした。
アニューが淹れてくれたのだと、兄が教えてくれて、どうしようもなく胸が熱くなった。
「兄さん…」
「うん」
「アイツ…まだ帰ってきてないんだ…」
「うん…そうだな…」
50年、だ。
世界を大きく二分する戦いが終わって、長い時間をかけて落ち着きを取り戻し、そして人類は新たな次元へ踏み出そうとしている。
そのどれもを、彼は、知らない。
「俺は、待ってやれなかった…」
「うん」
「迎えてやりたかった。『おかえり』って言って、『遅ぇんだよ』って文句言ってやりたかった…」
たった一人、世界のために旅立った彼を、ちゃんと出迎えてやりたかった。
『おかえり』
『よくがんばったな』
そんな言葉をかけてやりたかった。
世界が彼のことを知らないままでも、彼に帰る場所をちゃんと残してあげたかった。
ソレスタルビーイングも、プトレマイオスも、もう彼がいた頃のものと同じではなくなっている。
刹那は、戻ってきたらどこへ行くのだろう。
彼に帰る場所は残されているんだろうか。
たった一人、全ての責を負わせてしまったのに。
その責を少しでも軽くすることすら、もう自分には叶わないのだ。
「ライル。なぁ、ライル」
俯く俺に、兄が優しく声を掛ける。
「大丈夫だよ、きっと。世界は、薄情で、汚いけど。
でもきっと、刹那がたどり着ける場所はまだ残されてる。俺は、そう思うよ」
俺の肩に手を添えて、諭すみたいにして、兄はそう言った。
きっと、そうやって願うしかないのだ。
手も声も届かなくなったこの場所にたどり着いては、そうやって信じる以外に残されていないのだ。
兄も、アニューも、そうやってこれまで自分たちを見守ってきたのだろう。
歯がゆい思いを抱えながら、ただただ、願うしか。
真白い雲がどこまでも続く、光あふれる楽園。
いつか地球に帰ってくる彼にも、そんな場所があるといい。
そう願うしかなかった。
そうしていつしか、刹那がこの命の最果てにたどり着いた時には。
『おかえり』
『よくがんばったな』
そう言って、兄と一緒に出迎えよう。
11.07.31
―――――――――
ゆん先生の「楽園TV」の設定をお借りして、ライルとニールの会話を書きました。
さりげなく、これの一個前(と言ってももう二か月ほど前ですが…)に書いた「少年」の続き物みたいになってます。
ここまで書くともうなんかライ→刹っぽいですが、違うと言い張っておきます。(…
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