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久しぶりの小話は、長編の「君の名前」の番外編です。
とっても久しぶりにこの設定で書きました。書いてて懐かしかったです。

時期的には、本編最終話から二、三か月後くらい、二期の一か月前くらいです。
普通にライルなじんでます。笑。




 *****




宇宙の片隅で、ひっそりと大事件



内緒のかくれんぼ



「ロックオン」

女性にしては低い、けれど耳に心地よく響く声に呼ばれ、振り向く。
宇宙空間の無重力によって揺れ動く黒い癖毛に真っ直ぐな赤褐色の瞳が目に入れば、無意識に口元が緩んだ。

バーに掴まって無重力を移動して来た刹那を、腕を伸ばして受け止める。

「どうした?」
「シリルを見なかったか?」
「シリル?」

刹那の口から出た、もう一人の愛しい存在の名前に首を傾げる。

失くした記憶を取り戻す途中に故郷で孤児院を営んでいた刹那と共に出会い、その子が俺と刹那との間に産まれたのだと知ったのはつい数か月前のこと。

「いや、知らねぇな。てっきりお前さんと一緒だと思ったよ」
「イアンに手伝いを頼まれたから部屋にいるように言ったんだが、帰ったらいなかった」


フェルトと一緒なのかと思って刹那と共に彼女を訪ねたが、首を横に振られた。
ミス・スメラギにアレルヤ、ティエリアと、クルーを次々に訪ねるが、みんな答えは同じ。

徐々に、俺と刹那に焦りが滲み出した。
無表情ながら、刹那の動揺も手に取るようにわかった。
みんなに協力してもらって艦内をくまなく探したが、それでもやっぱり見つからなかった。

「外に出れるはずないわ。ハッチをこちらで開けないといけないし、センサーだって反応するもの」

ミス・スメラギがそう言う。
嫌な汗が背中を伝った。こんなこと、今までなかったのだ。
それまで比較的穏やかだった艦内の空気が、冷たくなって漂った。

「おぅ、兄さん」

それを全く読まずに打ち消したのは、俺の双子の弟であり、二代目の“ロックオン・ストラトス”となったライルだった。

「兄さんハロ知らねぇ?シュミレーションしたいんだけど見当たらねんだよ」
「ハロなんかどっかにいるだろ!それよりシリルだよ、シリル!」
「あ?何、シリルもいねぇの?」

苛立ちを隠せずつい怒気が上がってしまったが、ライルのその言葉に全て飛んだ。

「…ハロ、いねぇの?」
「だから、そう言ってんじゃん。頭大丈夫かよ」
「ロックオン…?」

それまでの動揺が一瞬にして消えた俺に対して、刹那が不審げに名前を呼ぶ。
安心させるように、彼女の黒髪をくしゃりと撫でた。

「たぶん、あそこ」

苦笑いを浮かべて、そう言った。




向かった先は格納庫だった。
普段一人の時は近付かないようにと言っていたから探す先としては除外していたのだが、ハロもいないとなれば話は別だ。

ライルに頼んでついこの間ロールアウトしたばかりのケルディムのハッチを開けてもらえば、コックピットの中で、規則正しく寝息を立てる小さな子どもと、そして、今は弟の相棒となったA.Iがそこにいた。

「シリル」

刹那が真っ先にコックピット内に入り、シリルを抱き上げた。
背中をこちらに向けていたから表情は見えない。
けれど、心底安心した、込み上げる何かに耐えているであろうことは予想出来た。

「なるほど、ハロと一緒ならこの中も入れるわな」

ライルが納得したようにそう言う。
ハロにはデュナメスの時と同じように、ケルディムの認証システムが組み込まれている。
コックピットのロックを解除することなど、わけないのだ。

『シリルネテル、ネテル』

人の苦労も知らずに、単調な声でハロがそう言う。
どういうつもりでここにシリルを連れて来たのかは知らないが、しばらくシリルと一緒に行動させないようにしようと心に誓った。


「ん…ソラ、ン…?」

刹那の腕の中で、シリルが目を覚ます。
起き抜けでまだ眠そうに目を擦っていた。

「すごい、ねぇ。かっこいいねぇ、ガンダム」

柔らかな笑みをほんやりと浮かべて、シリルが刹那にそう言う。

「あぁ、すごいな。…でも、もうハロと一緒でも来ては駄目だぞ」
「ソランとニールが一緒なら、いい?」
「…そうだな」

刹那は怒るかと思ったが、どうやら俺と一緒でシリルの笑みにほだされてしまったようだ。
子どもの笑顔とは無敵だ。

刹那があやす様にシリルの背中を撫でれば、また眠気がやって来たようだった。
幾分も経たないうちに聞こえた寝息に、思わず口元が緩む。


コックピットの中の愛しい存在を、腕を伸ばしてまとめて一緒に抱きしめた。


09.12.20


――――――――
こんなにさくっと話を書けたのは久しぶりです。笑。
楽しかった。
実際ハロがどの辺まで出来るかは不明…。その辺は、まぁいいように。(…
 

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