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刹ニル♀シリーズ最終章です。
やっとここまできたー。



 *****




君と一緒に未来を紡げたらいいなって、ずっと、そう思ってたんだ



一段飛ばしで貴方の場所へ-1-




カタ、カタ、カタと、無機質な音を立てて、ニールは浮かない顔をしながら携帯電話を操作していた。
何度同じ操作を繰り返したか分からない。
そして、それに対する携帯からの返答も、毎回同じだった。
何度メールセンターに問い合わせても、表示されるのは”0件”のゴシック体。着信があった形跡もない。
はぁ、と重くため息を吐いた。

最近、刹那からの連絡が途絶えがちになっていた。

就職活動で忙しいのだから仕方ない、とは思うのだが、それにしては、目に見えるように減っている。
会う機会が減っているから、余計にそう感じるのかもしれない。
もう一度、溜め込んだ気持ちを吐き出すようにして、ため息を吐いた。

そんなニールの気持ちを察したのかわからないが、手元の携帯電話がメールの着信を報せた。



「フェルト」

先に席に座っていた人物に声を掛けると、顔を上げて応えてくれる。
カフェのテラス席には春の柔らかな日差しが降り注いで、座っただけでほんやりとした。

「久しぶり。元気だったか?」
「うん、元気だった」

久しぶりに会えないか、と彼女から入ったメールに、快く返事をした。
フェルトも就職活動で忙しない毎日を送っていたようで、こうして顔を合わせるのはとても久しぶりだ。
メールを送ってきたのが刹那ではなかったが、それでもニールにとっては嬉しい。
八歳も離れているが、妹のような、大切な存在だ。

「あ、そうだこれ」

手に持っていた、雑貨屋の紙袋をフェルトに差し出す。若い女の子の間で評判になっているらしい雑貨屋だ。
最初小首をかしげていた彼女も、ニールが就職祝いだ、と言えば、綻ぶように笑った。

「ありがとう、嬉しい」
「よかったな、ちゃんと決まって」

就職氷河期と言われる時代だ。彼女も、優秀ながら相当苦労したのだろう。
メールで内定が出たことを一緒に報告してくれて、ニールも自分のことのように嬉しかった。

「やっぱり大変だったか?就活」
「うん、でもある程度はわかってたことだから。決まってない人、まだたくさんいるみたい」

フェルトのその言葉に、恋人のことが頭を過ぎる。「決まってない人」の中には、刹那も入っているのだろう。

「そうだよな…。刹那も、早く決まるといいのにな…」

ぼやくように、そう言う。
だがそれに対するフェルトの反応は意外なものだった。

「え?」

目を丸め、まるでニールが何を言っているのかわからない、という顔をしている。
そのフェルトの表情に、なんだかすっと気温が下がったような気がした。

「ニール、知らないの…?」


あぁ、待ってくれ。なんだかすごく嫌な予感がする。
心の準備が、まだ出来てない。

春の日差しを受けているはずのテラス席は、自分のところだけ冬の木枯らしが吹いているような気分になった。




耳から聞こえる携帯電話のコール音が鳴るたびに、心臓が重く音を立てた。
早く出て欲しい。でも、事実を知るのが怖い。
刹那に電話するのに、こんなに憂鬱な気分になったことなど、今までなかった。

5、6回、コールを繰り返して、ようやく耳に相手の声が届く。
どくり、と心臓が鳴った。

『もしもし』
「あ…せ、せつな?」

少し焦りながら応対してしまったが、相手の声が聞き慣れたトーンのもので、ほんの少しだけ安堵した。

『どうした?』
「あ、あのさ…っ」

意を決して口を開いたが、思うように次の言葉が出てくれない。
フェルトが教えてくれたことが、頭をぐるぐると駆け巡っている。

『刹那、内定来てたって言ってた。第一志望のところの』

フェルトの言ったことが真実なら、何故自分にそのことを報せてくれないのか。
確かめなければならない。

「今度、会えないか…?最近、会ってないし…話したいこと、あるし」

どうにかして絞り出すようにそう言う。

『……すまない、暇がしばらくない。今では駄目か?』

わかりやすいくらいに間を置いて、刹那が言う。
ずしりと、胸の中の鉛が重さを増す。
そんなに、俺に会いたくない?
喉元まで出かかった言葉は、音もなく飲み込まれてしまう。

「会って、話したい…っ」

電話越しでこんな大事なことを話すのは嫌だった。
どうにかして、時間を作って欲しい。
ひどく自分勝手な考えだとわかっているが、止められなかった。

『……暇が出来たらこちらから連絡する』

またたっぷりと間を置いて、どこか面倒そうにも聞こえる口調だった。
頭が真っ白になる。
どこか淡い期待を寄せていた。忙しくても、自分のために時間を割いてくれるのではないかという、そんな図々しい期待を。
あぁ、なんて馬鹿なんだろう。

それからすぐに電話越しに、刹那を呼ぶ声が聞こえる。
聞き覚えがあるそれは、店のオーナーのものだとすぐわかった。
やはり、フェルトの言う通りだった。

すまない、切るぞと忙しない様子で刹那はそう言って、ぶつりと通話を切った。
返事をする間もなく、気付いた時にはもう電話からの無機質な音しかしない。


一気に後悔した。
意地になって会おうとしないで、今切り出してしまえばよかった。

「就職決まったんだってな、フェルトから聞いたよ。おめでとう」

そう、言えばよかった。


『最近学校にもあんまり顔出してないの。バイト、してるみたい…』

ニールの顔色を伺いながら、気を遣うように話してくれたフェルトの言葉が頭を過ぎる。

何も知らなかった。
刹那に内定が出ていたことも。
それを期にバイトに勤しんでいることも。

そうだそもそも、第一志望がどこなのかすらも知らなかった。
聞いたことはあった。そうしたら彼は、そのうち話す、としか言わなかった。
一時期就職活動が上手くいかなかったこともあったから、あまりしつこく追求するのも悪いと思って、刹那の方から言ってくれるのを何とはなしに待っていた。

でも、こんなことになるならしつこく聞いておくんだった。

いいや、早いか遅いかだけの問題で、結果なんて同じだったのだ。
刹那の下した結論はそうだった。ずっと前から決めていたのだ。

『刹那の就職先ね、ここからずっと遠いところなの。引っ越す、みたい…』


つまり、そういうことなんだろ?
内定先も、引っ越すつもりだっていうことも何も教えてくれなかったっていうことは、つまりは、そういうこと、なんだろう?






君との未来を描いていたのは、俺だけだったのかな



10.11.16

title by=テオ


――――――――
というわけで、ラストに向かってゆきます。
早めに書けたらいい な…!!
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