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劇場版公開前に、書き上げたいなぁと思ってたネタ。
公開前だからこそ、妄想は自由に!(…


報道記者なニールさんのお話です。

絹江さん登場させたのは初めてです。


せっちゃん一ミリも出てないけど、ニル刹♀だと言い張る。←



 *****




ゆらりゆらりと、空気がたゆたう。
立っているはずなのに、足が地に着いた感覚はない。ふわりと、浮いているような感覚だ。
ゆらめいているのは自分の方かもしれない。

あぁ、まただ。

ぼんやりとした白い、真白い場所。
そこにいつも立つのだ。
最初こそ戸惑いはしたが、今ではその感覚も薄れている。
この先に何が待っているかもわかっている。

あぁ、ほら、いた。

何かに煽られているかのように、ひらひらと、あかいストールが揺れている。
真っ直ぐな立ち姿だ。
こんな、何もない、音すらしない場所に立っているのに、いつも迷いがない。
あんなに、小さな背中なのに。

ゆっくり、もがくように近付く。
いつも思うが、夢の中というのはどうしてどんなに頑張っても早く走れないのだろう。
けれど、この行為が無駄なことも、もうわかっている。
わかっているはずなのに、ただとにかく、足を動かした。

いつも届かないんだ。
どんなに手を伸ばしても、どんなに急いでも。

君に、触れられない。
君が、誰かわからない。

「  」

自分が何を口にしたかすら、目を覚ませば消えてしまう。





伸ばした手の先-1-





ふ、と意識が覚醒する。
しばらくぼぅっとして、いつもの白い天井に、あぁ起きたんだ、とようやく理解した。
朝っぱらから涙でぐしゃぐしゃな顔や枕には、もう慣れてしまった。
いつものことだ。

あの夢を見ると、必ずと言っていいほど泣いている。

何が哀しいのかも、目を覚ました自分には理解出来ない。
しばらく時間が経てばどんな夢だったかすら忘れてしまうほどだ。
ただとにかく、子どもみたいに泣いているのだ。



朝の支度をして、夢のことなど何事もなかったかのように家を出た。
いつもより遅い時間に起きてしまったので、通勤ラッシュに少し引っかかり、それだけが悔やまれる。
インフラが整備され、発展の留まるところを知らない経済特区・東京でも、朝の戦争だけはやはり避けられないらしい。


どうにか渋滞をすり抜けて職場であるJNNに顔を出したのは、出勤時間ギリギリだった。
すれ違う同僚と挨拶を交わして、自分のデスクに座り、ようやく、一息吐いた。
今日は忙しいのだ。
地球連邦の政府のトップと、連邦加盟国のうちの一つのトップが東京で会談を行うらしく、その取材に出かけなければならない。
夕方には全て編集し終えて番組として成立させなければいけないのだ。


「ニール君」

掛けられた声に、顔を上げる。
凛とした声の主は、信頼の置ける先輩だ。
俺よりも二つほど年下のはずなのだが、少し歳の離れた弟がいるらしく、その上ソツなく仕事をこなすものだから、いい意味で年下に見えない。頼りになるのだ。

「絹江さん。おはようございます」
「おはよう。珍しいわね、こんな時間に出勤なんて」

俺の大体の出勤時間をよく知る彼女の言葉に、苦笑いでやり過ごした。
朝から大泣きしてました、なんて言えるほどの人間にはなれない。

「そうそう、いいニュースよ」
「何です?」
「君がデスクに出してた企画。あれ、どうやら通りそうよ」

思わぬ報告に、一瞬、目を丸めた。
後からじわじわと喜びが胸を占めてくる。

「マジですか?」
「その代わりちゃんとモノにならないと痛い目見るわよー。デスクもやる気になっちゃったから、特集番組組むらしいわ」

軽い脅しを含んだ先輩の言葉も、今は全く気にならない。
だって、念願叶ったのだ。
ずっと企画を出し続けて、幾度となくボツになって、それでも諦め切れなかった。
どうしても、やりたかった企画だったのだ。

「それにしても君も頑張るわね。四回くらいデスクにダメ出し食らっても諦めないなんて」
「五回です」
「ゴクロウサマ。でもそんなに資料出ないだろうから大変よ?昔よりは情報も解禁になってるだろうけど…」
「頑張りますよ。これでクビになるわけにもいきませんし」

自分のやる気が伝わったのかどうかわからないが、絹江さんは肩をすくめて笑った。

「気合入ってるのね、ほんとに」
「使命感、ですかね」
「使命感?ジャーナリストとしての?」

先輩の言葉に対して、俺は笑うだけの返事をした。
自分でも、なんと言ったらいいかわからないのだ。
それは彼女の言う通り、ジャーナリストとしての使命感かもしれない。けれど、それですとんと胸に落ちるものがないのも事実だ。
何か、違う気がしてならない。
けれどそれを上手く表現出来る気もしなかった。
ただ、自分がやらなければならない。
そんな、漠然としたものに駆られているだけなのだ。


「あぁ、そうそう。代表会談の取材、朝の会議終わったらもう出るわよ」
「あ、わかりました」

時計を見れば、もういい時間だ。
鞄から端末を取り出して、騒がしい報道フロアを後にした。




今回の会談が本部であるニューヨークでなく、わざわざ東京で行われたのには、理由がある。
平和だから。
その、ひどく明瞭で単純な理由は、最も重視すべき点なのだ。
経済特区として21世紀初頭には目覚しい発展を遂げ始めた日本では、目立った紛争がほとんど起きていない。
昔、世界が混乱していた頃テロが一度起きたらしいが、それも首謀者が比較的すぐに捕まり大きな事件にはならなかった。
地理的に様々な国と渡航を行い、世界中の企業が集まるこの国で、今さら紛争を起こそうとする人間もいないのだろう。

連邦政府とその加盟国の間では、少し前から緊張状態が走っていた。
今の連邦政府のやり方が気に入らないようで、度々国際会議で衝突が見られていた。
その緊張状態は他の加盟国にも影響を与えるようになっていた。
下手をすれば上手い具合に成り立っていた今の世界情勢が根本から崩れ去ってしまう危険性もある。
せっかく長い月日をかけて、本当の意味で世界が一つにまとまったというのに、それでは意味がない。
昔のような、勢力を分断したやり方で世界が上手く動くことがないのは、誰しもがわかっているのだ。
それを避ける為に、連邦とその加盟国、どちらも少しずつ譲歩する形で、今回の会談が取りまとめられた。
東京で行われることになったのはそのアピールだ。
自分達はこの東京のように、穏便に、平和に事を進めていきます、というわけだ。





代表会談の一連の忙しさが落ち着いた後、俺はすぐに自分の企画の方の取材に取り組んだ。
絹江さんが釘を刺した通り、情報量はかなり少ない。
同時進行で他の仕事もこなさなければいけないから多忙を極めたが、妥協する気にはならなかった。


「あ、いたいたニール」

社内の資料室で調べ物をしていると、声がかかった。
目を通していた資料から視線を上げると、そこには分けた前髪からグレーの瞳を覗かせる人間がいた。

「おぅ、アレルヤ」

アレルヤは、同期の中でも親しくしている間柄だった。
部署こそ違うものの、入社式で出会って、歳もわりと近いことからよく話す仲になった。

「頼まれてた例の映像、解析できたよ」

どこか嬉しそうに、アレルヤがデータスティックを手に持って見せてくる。

「ほんとか?早かったな、助かるよ」
「だいぶ古いやつだから、画像は荒いし見づらいけどね」

アレルヤはデータ解析とか画像解析の分野に富んでいる。
よく他の部署からも過去の資料の解析に借り出されているようだ。
俺が見つけて来たムービーも、かなり昔のものだけあってそのままで見ることは出来なかった。

「それにしてもよく見つけて来たね、こんなデータ。未だにほとんどが政府とか軍に規制されてるのに」
「それ結構大々的に報じられたヤツらしいんだよ。ここでも中継したらしいし」

それは、中東の一国でクーデターが起きた時の映像だ。
その収束の仕方に全世界で注目されていたもので、もちろん、当時もあった我が社も中継を行っており、そのデータが資料として残っていたのだ。

「助かったよほんと。今度メシ奢るな。弟…ハレルヤだっけ?そいつもよかったら一緒にさ」
「わ、いいんですか。きっと喜びます。給料日前とか結構悲惨だから」

そう言って、アレルヤが苦笑いを浮かべた。
彼には双子の弟がいるらしい。よく話を聞く。俺も双子の弟がいるから、親近感が湧いた。
アレルヤは仕事が残ってるから、と言ってそのまま資料室を後にした。




家に帰ってからあの画像を見た俺に襲ってきたのは、何故かどうしようもなく、胸の奥底から込み上げるような感情だった。
それは、あの夢の中で感じるものとよく似ていた。
何かを追い求めているような。探しているような。

荒い画像の中で悠然と存在する青と白の機体。
それは、迷うことなく突き進む、まさに、聖者の行進だった。




その夜また俺は夢を見る。

夢の中に真っ直ぐ立つその人物は、どうしてだか、あの機体の姿によく似ていた。




10.08.06

―――――――――
無駄に前フリ長くて読みづらくてよくわからなくて申し訳ないです…。
どうしてこう、上手くまとめられないんだ…!(悶

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