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二期終了後捏造。お家芸。←
劇場版ガン無視。

ニールさん生存設定です。
なんかもう半分パラレルっぽい。

ニル(31)+刹那(23)



 *****






雨が窓を叩く音が耳に入った。
カーテンを少し捲り外を見れば、夜の闇に紛れ、それなりに強く降っている。
昼過ぎに出掛け、夕方頃帰ると言っていた同居人はまだ帰宅していない。
端末に連絡しても呼び出し中のコール音が続くばかりだった。
さて、どうしたものかと思案する。
この土地に住んで一年になるから、まさか迷ったということもないだろう。
傘は持たせたから濡れる心配はないのだが。
じっとしていても仕方ないので、上着を手に取り、傘を広げてロックオンは家を出た。



敷かれたレールを歩む




近所をうろうろと歩くが、それらしき姿は見当たらない。
本人の端末に再び連絡を入れてみるが、案の定出ることはなかった。簡単に出たらそれこそ苦労はしない。
ティエリアに相談してみようか、とも思ったが、最後の手段にすることにした。
刹那がいなくなったなんて言ってみろ。怒られるのは間違いなく自分だ。

出会ったばかりの頃の常識外れの行動は成長したおかげか今ではほとんど見られないし、それなりに今の日常にもなじんできたからそうそうおかしいことをやらかすとは思えないが、何せ相手はあの刹那だ。
時々自分の思いつかないような考えと行動を起こす。
今回もそれでなければいいが。



雨が降りしきる中、小さな緑地公園に差し掛かる。
ふと中を覗いた。

あ、いた。

見覚えのある後ろ姿は、木の根の方に視線を落とし、立ち尽くしている。
癖のある、いつも自由に跳ねている黒髪は雨に負けてへたれていた。
持たせたはずの傘は自身には差しておらず、腰の辺りで広げて持っている。
何をしているんだか、と呆れて一つため息を吐き、公園の中に足を踏み入れた。

「こら、何してんだ。風邪引くだろうが」

少し怒っているような口調で、声を掛けた。
常識外れとまでは言えないが、この状況はちょっとばかしいただけない。
刹那は視線を下に落としたまま、微動だにしない。
雨を遮るように地面に差された傘を覗くと、刹那の行動の意味を知った。

犬だ。
しかも、おそらくだが産まれたばかり。
辺りをさっと見回しても、親犬らしき姿はない。

――あぁ、そうか。
この産まれたばかりの命は、もう世界に見捨てられようとしているのだ。

寒さからどうにか身を守ろうと身体を小さく丸めているが、小刻みに震えたその姿はひどく頼りない。
産まれたばかりできれいなはずの毛は、雨と泥でぐしゃぐしゃだった。
動物にさほど詳しくないロックオンでもわかる。
このまま放っておけば、それほど長くは持たないだろう。


その小さな命を、偶然にも刹那が見付けたのだろう。
とりあえず雨を凌ぐために傘を広げているだけなのが、刹那らしいと思う。

彼は、きっと迷っているのだ。


ロックオンはふむ、と少しだけ考える。
それから小さく笑って、服が雨や泥で汚れるのも構わずに、小さな命を抱きかかえた。
胸の側で、子犬がぴす、と鼻を鳴らしたのが聞こえた。

ロックオンの行動に目を丸めたのは刹那の方だ。
そんな刹那の驚きを余所に、ロックオンは目を細める。
男二人の所帯だ。
一匹家族が増えれば、きっと楽しかろう。

「とりあえず、病院だな、コイツの」

刹那に自分で傘を差させる。
彼を風呂にも入れてやりたいが、まぁ、刹那のことだ。なんだかんだ言って風邪をこじらせることはないだろう。

ロックオンがずんずんと歩を進めると、後から刹那が付いて来て、しばらくしてから肩が並ぶ。
彼はまだロックオンの行動に困惑していた。


刹那が悩んでいた理由はわかる。

どんなに小さくても、命が命であることに変わりはない。
その命を、死にそうだから、可哀想だからと、一時の同情と自己満足だけで救い上げてはいけない。

相手に満足させられるだけの人生を(まぁ、今回の相手は犬だが)与えられるという自信と覚悟がなくては、それは無責任で、命を無下に扱ったと何ら変わりない。

刹那にはその、自信も覚悟もなかったのだ。
命がどれほど重く大切かをわかっているのに。
否、わかっているからこそ。
自分には、そんな資格がないと、手を伸ばさずにいる。

でも、放っておくことも出来ない。
それは彼の中にある優しさに他ならない。
手を差し伸べられないなら、せめて見届けようと思ったのだろう。
傘を差し出し、この世に産み落とされたその命が尽きるまで。


要するに、刹那の中にあるのは矛盾なのだ。
優しさで救われるものがあると知っているのに、自分にはそれを与えるべきでない、与えられるべきでないと戒める。
刹那は、大切だと思えば思うほど、自分から遠ざけてしまう節がある。

生真面目だな、と思う。
資格とかそんなこと考えずに、思ったように生きればいいのに。
まぁそういう、生真面目すぎるところも刹那の刹那たる所以なのだろうけれど。



「お前はさ、きっかけを作ったにすぎないんだよ」

ロックオンがそう言うと、刹那は目を小さく丸める。
雨は相変わらず降り続け、傘を濡らした。

「お前もさ、他人から道筋を曲げられた存在だ。でも、その強制的に敷かれたレールを別段恨んだりもしないで、お前はきちんとお前の意志で生きて来ただろ?
コイツも同じだよ。
刹那はコイツの道筋を広げてやっただけなんだ。コイツが生きるきっかけを作ってやったんだよ。
それをどうやって生きるかは、あとはコイツ次第だ」

お前さんと、同じようにさ。

腕の中の小さな命が、先ほどよりも少し大きく、ぴす、と鼻を鳴らした。


「……ロックオン」
「うん?」
「…ありがとう、」

雨の音に紛れて、刹那が噛み締めるみたいに言った。
雨脚は、少し弱まったようだった。




(なぁ、名前どうする?)
(ニールがいい)
(え、いやそれはちょっと…)
(もう決めた。ニールがいい)
(……なんでそこはそんなに頑固なの、せっちゃん)



10.01.17

―――――――
なんで二人一緒に住んでるのとか、他のトレミークルーはどうしたのとか、これ本編沿いって言えるのとか、そういう突っ込みは、ぜひ胸に内に。←
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