忍者ブログ
雑記・感想、小ネタなど。 ここから入ってしまわれた方は、右のBackから戻ってください。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


ニル刹小話。

一期19話後辺り。



 *****








「羨ましいよ、お前さんが」

思わずそう呟いた。
彼は、意味がわからない、といぶかしげな視線をこちらに向けていた。



閉じた目蓋の下であなたは遠い彼方を見つめた




コンテナを隠している無人島の砂浜に座り込んでいた刹那を見つけた。
最初は声を掛けようか迷った。
お互いの過去に因縁があることを知ったのは、ついさっき、ほんの、数時間前だ。
夜になっても眠気が訪れなくて、頭を冷やそうと夜の海に赴いた。
けれど、先を越されてしまったようだ。
風に揺れる癖毛の黒髪を、綺麗だな、なんて思った。

「刹那」

そうコードネームを呼べば、少しだけ彼は肩を揺らした。
視線だけをちらりとこちらに向けて、そしてまた海の方へやってしまった。
砂を踏みしめて、刹那の方へ歩いた。足に伝わる砂の感触が、やけに気持ちよかった。

すとん、と隣に腰を下ろす。
別に何か用事があったわけでもない。
今更あの話を蒸し返そうとも思わない。
だから、何も話さなかった。
刹那もただ海を見ているだけだったから、そこに生まれたのは沈黙だけだった。

ちらりと、刹那を見た。

真っ直ぐに、海を見つめる眼。

あぁ、やっぱり、この眼なんだ。
何の迷いもない、ただ真っ直ぐに、全てを見る眼。


「羨ましいよ、お前さんが」

思わず、そう呟いた。
彼は、意味がわからない、といぶかしげな視線をこちらに向けた。


思えば刹那の眼はいつも真っ直ぐだった。

ガンダムマイスターに選ばれ、初めて会ったときも
武力介入を始めたときも
モラリアでコックピットから出て非難を浴びたときも
トリニティの存在が明るみになったときも

そして、俺が銃口を向けたときも


その眼が揺らぐことはなかった。
ただ真っ直ぐに、目の前にある何かを見据えていた。
それらは全て、紛争の根絶に繋がっている。

俺は、刹那の意思が迷ったりブレたりしたのを見たことがない。
何にも動かされず、何にも介入されず。
ただとにかく、この世から争いを失くす、その為に。

そんな小さい身体の、どこにそんな強さがあるのだろうと思った。


羨ましかった。

俺は、迷ってばかりだから。
俺は、弱いから。

捨てられるはずのない憎しみを捨てた振りをして、戻れないはずの過去を振り返り続ける。
家族をことをあれだけ思っていたのに、結局、引き金を引くことが出来なかった。
別に撃たなかったことを後悔しているわけじゃない。
寧ろ撃たなくてよかったとすら思っている。
ただ、彼のように迷いのない意志を持つことが出来ないのが情けない。

前だけを見て、歩けない。


どうやったら、お前みたいに強くなれるんだろうな



「…ロックオン?」

何も言わなくなった俺のコードネームを、刹那が呼ぶ。
ロックオン・ストラトス。
それが今の俺の名前。
迷いを許されないはずの、俺の名前。

「…なんでもねぇよ。じゃあな刹那、おやすみ。風邪引くなよ」

いつもみたいに、彼の頭は撫でられなかった。
そうすることの権利を、今の自分にはないような気がしたから。

踏みしめる砂の感触は、なんだか気持ち悪かった。




その強さを分けてもらえるなら、ほんの少しでいい、欲しかった



title by=テオ



―――――――
刹那を撃てなかったのは兄さんのやさしさであり、よわさだったように思う。
とにかくせっちゃんの強さを羨ましがる兄貴が書きたかった。

PR
[101] [100] [99] [98] [97] [96] [95] [94] [93] [92] [91]
Calendar
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
Search
Back
忍者ブログ / [PR]
/ Template by Z.Zone