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久しぶりの小話です。
刹那とライルのお話。二人で兄さん語り。
刹那とライルのお話。二人で兄さん語り。
*****
グリニッジ標準時刻ではそろそろ深夜になろうとしている。
目にも疲れが見え始めたこともあって、開いていたデータファイルを片付け休もうかと思っていたときだ。
刹那の部屋に、来訪を告げる軽い電子音が鳴った。
優しい自分勝手
「兄さんって酒飲んだりした?」
「たまにな。スメラギに付き合わされて酔い潰れることがあった」
刹那が言うと、ライルが「あの人底無しだもんなぁ」と笑いながら酒を仰いだ。
刹那もライルから一缶手渡されたが、持っているだけで口にしようとはしなかった。
最近になって、時たまこうやってライルと酒を交わすようになった。
とは言っても缶を開けるのは専らライルの方だ。
ライルは刹那のベッドを陣取って、他愛ない話をする。スメラギの今回の作戦はあまりに横暴すぎるだとか、ティエリアのヴェーダを介しての監視が行き過ぎてるだとか。刹那はそれらに適度に相槌を打った。
そういう愚痴から始まって、やがていつも兄の話になった。
「アンタらはさ、どうせ兄さんのこと優しい優しい、慈愛の塊みたいな人だと思ってるんだろ?」
ライルはどこか皮肉を込めて言った。
彼が兄のことを悪そうに言うのはもう分かり切ったことなので刹那もそれほど驚きはしない。
ライルの言い方は主観混じりで度が過ぎてるとも思うが、ニール・ディランディという人間が優しい人だというのは否定しなかった。
代わりに、ライルに尋ねた。
「そういうお前は、どう思うんだ」
刹那がそう言うと、ライルは意地悪っぽそうに口元を歪めて笑う。
「あれは、ただの自己中だよ。究極の、自己中人間」
刹那は小さく目を丸める。それはさすがに、言い過ぎではないかと思った。
「言い過ぎとか主観染みてるとか思ってんだろ?違うね。
アイツが本当に他人のこと思いやれる人間だったら、今頃俺たちと一緒に酒飲んでるはずだね」
本当に家族やアンタらのことを考えてるんだったら、下らない敵討ちなんかで命を投げ出したりしなかった。ライルはそう言う。
下らない、と一蹴したライルに、刹那は少しだけ神経を尖らせた。
それを悟られないように、ゆっくりと口を開いた。
「家族やお前のことが大事だからこその行動だろう。そんな風に言うな…」
「俺の両親や妹があの男を殺してくれって頼んだか?悔しい悔しい、だからニール、あの男を懲らしめて、憎んで仇を討ってって、そんな風に言ったと思うか?
俺が両親や妹の立場だったら、そんなこと望んだりしないね」
アンタらにしたってそうだ。ライルは続けた。
「散々優しくされて忘れられないようにして、そうして勝手に目の前からいなくなって。アンタやティエリア、フェルトはずっとそんな兄さんの影を追い続けてる。
こんなんまるで刷り込みだ。そんなの、優しさって言えるか?」
あの人は寂しがりやなんだ。ライルが言う。
自分が寂しくて人に飢えてるから他人に優しくして、自分を忘れられないようにしてる。
俺にだってそうだ。金を送り付けたのだって車を寄越したのだって、自分が満足したいだけなんだよ。
「だってなぁ、そうだろ?
兄さんが本当に俺やアンタらのこと想ってたら、あんなところで死んだりしなかった。這ってでも生きたさ。
俺はアンタに勧誘されることもなく別の生き方をして、アンタらの傍には変わらずあのロックオン・ストラトスがいた。
アンタは兄さんを助けられなかったって自分を責める必要もなかった。
あの人はさ、周りを大事してるフリして、本当は自分のことしかみえてなかったんだよ。自分がいなくなって周りがどう思うかなんて、これっぽちも考えてなかった。
そういう、自分勝手な人間なんだよ」
言い終わると、ライルは酒を仰いだ。
刹那は、何も返さなかった。返す言葉が見つからなかった。
たぶん、ライルの言っていることは正しいのだ。
ニール・ディランディは自分勝手に優しさを振りまいて自分勝手に仇を討って死んでいった。
昔、彼が「お前さんがでっかくなったら一緒に酒飲もうぜ。とっておきの酒用意してやるよ」なんて言ってたことをふと思い出す。
あの言葉は果たされることがなかった。
代わりに彼の弟と酒を飲み交わしているのだから、可笑しい話だ。
ライルの言葉を肯定することは簡単だ。
刹那自身、彼の言い分に大方納得し、間違っていないと思っているからだ。
だが、肯定してしまえばそれがニール・ディランディの全てになってしまう気がした。
それは、嫌だった。
ライルの言うことには納得はしている。
けれど、刹那の中のニールはやはり、それだけではなかった。
「でもさぁ」
ライルがぽつり、と漏らす。
視線を落とし、空いたのであろう缶を手で弄んでいた。
なんだか、その姿がひどく寂しげに見えた。
「そういう、自分勝手な優しさに救われるヤツも、いるんだよなぁ」
たぶんきっと、ライルはわかっているのだろう。刹那と同じように。
ニール・ディランディの優しさが、自分勝手なものだけでなかったことを、わかっているのだろう。
でもそれを認めてしまうことは、自分がそんな優しさに置き去りにされたのだと突き付けられたようで、惨めで悲しくてたまらない。
ライルもティエリアもフェルトも、そして自分も。
ニール・ディランディの自分勝手だったりそうでない優しさに救われて、そうして置き去りにされてしまったのだろう。
刹那はずっと自分の手の中にいた酒の缶のことを思い出した。おもむろにその封を空け、そうしてくい、と仰いだ。
すっかり温くなってしまったが、構わなかった。今の自分にはそれがちょうどいいと思った。
そうしてふと、ライルとこうして酒を交わすこの時間のことを考えた。
きっと自分たちは、置き去りにされた者通しで、無意識に寂しさを共有したいのだ。
そういう、彼がいなくなったことでぽっかりと空いてしまった穴を、埋めてしまいたいのだ。
彼が用意しようとしていた「とっておきの酒」とやらの代わりに、温くなったビールを仰ぐ。
それはきっと、滑稽以外の何物でもないのだろう。
11.04.15
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もう少しライトな話にする予定だったんですが…うぅん難しいな。
刹那とライルが酒を飲みながら「兄さんってバカだよな」って話してといい。(ぇ?
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