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最近小話がメイン化しつつある困ったサイトです。(…
日記すら書かない、という…。
そのうち近況報告など色々したいと思います。特にないのですが。←
今回の話は、ライル視点のニール(24)+刹那(16)。
本編よりの話です。
*****
ミッションもしばらくなくてヒマで、部屋でなんとなく、ハロの中にあったデータを漁っていたら、一つのファイルに行き当たった。
それは、穏やかで懐かしい、かつての思い出だった。
少年
最初に映ったのは少年の黒い癖のある髪だった。
そこから少し視線が動き、今度はその少年の表情が映し出される。彼は目を瞑り、規則正しく寝息を立てていた。
その表情は、幼い頃から戦場を駆け回っていたとは想像しがたいほどに穏やかなものだった。
『セツナネテル、ネテル』
映像の中でハロが言いながら、視線が上がる。
画面上にはハロはいないから、これは直接ハロに搭載されているカメラで撮られたものなのだろう。
ハロが向けた視線のその先には、自分の片割れがいた。
『そ、寝てる。だからハロ、少ーし、静かにな』
そう、子どもに話しかけるみたいに言って、人差し指を口元に持っていく。
なんというか、楽しそう…というよりは、嬉しそうだ、兄は。
そういうのを見てぱっとわかるのは、やはり、腐っても双子、ということらしい。
『リョウカイ、リョウカイ。ハロシズカニシテル。セツナオコサナイ』
それから兄に従うようにハロは言葉を発することを止めたが、映像は続いていた。
少年は、兄の膝の上で穏やかに寝息を立てている。兄はそんな彼の髪を優しく撫でていた。
ハロの視線はやがて兄の表情を映した。
目を細め穏やかに笑うそれは、嘘偽りなく少年を慈しんだ顔だった。
似たような表情を、ライルは以前に見た記憶がある。
刹那とミッションのために地上に降り、郊外の田舎町を歩いていた時のことだ。
彼は何かを見つけると歩をぴたりと止め、少し先の一点に視線を注いでいた。何かと思って同じ方向を見れば、川辺の草むらで楽しげに遊ぶ子ども達だった。
十人ほどいたが、年齢がばらばらに見えたから、おそらく孤児院か何かに入っている子どもなのだろう。
引率者であろう女性を囲って、みんな笑顔だった。微笑ましいな、とライル自身思った。
先に子ども達の集団を見つけた刹那は相変わらずそこをずっと見つめている。
どんな顔で見ているんだか、と興味半分でちらりと彼を見た。
刹那は、目を細めてとても優しげに微笑んでいた。
その時の穏やかな表情に、兄のこの顔はよく似ていた。
ライル自身、その時は少し驚いた。彼のあんな表情は、それまで見たことがほとんどなかったから。
何事にも冷静かつ淡白。そんな印象が頭に張り付いていたから、あんな風に優しく笑えるとは思わなかった。
だが、この映像を見た今ならわかる気がする。
きっと、刹那は兄からたくさんの優しさをもらったのだ。
優しく温かいものをたくさん教えられ、少年はそれを心の中で育んだ。
兄がいなくなった後も、ずっと。
人は、与えられたものを他人にまた与え、返していく。
痛みなら痛みを。
憐みなら憐みを。
そして、優しさなら、優しさを。
きっとこの映像の中の時間は、彼の原点なのだろう。
少年は裏表のない優しさを与えられ、世界のあるべき形を知った。
きっとこんな風に穏やかで優しい世界を、彼は創りたかったのだろう。
映像はしばらくすると終了した。きっと他人からすれば何の面白味もない、まぁ微笑ましいな程度の、単調な映像だろう。
けれどライルには、ここに泣きたくなるほどの優しさと温かさが詰められていることを知っている。
人を、愛しむということ。
その全てが、この映像には残されている。
ライルはおもむろに端末を繋いだままのハロと一緒に部屋を出て、プトレマイオスのラウンジにたどり着いた。
たぶん今の位置なら見えるだろうと踏んだ。
暗い暗い宇宙の中に、優しく世界を照らす一輪の華。
あの少年が心に描き続けた、世界のあるべき形。
刹那がクアンタと共に宇宙の彼方に行ってもう一年が経つ。
消息そのものはヴェーダを介して無事であることがわかっているが、通信も届かないような距離だ。
今頃、何をしているのだろう。
刹那がいない間に世界は再び大きく動こうとしていた。
どうかその動きが、歪みに支配されず彼の描いた理想に近付くことを願いたい。
彼が帰って来た時に、悲しい顔をせず、またいつかのように優しく笑える世界になってるといい。
ライルは端末を操作した。
優しい時間が詰まった映像。切り取られた永遠。
それを、静かに消去した。
きっとこの時間は、他人が踏み込んではいけないものなのだ。
刹那と兄だけの、優しい優しい、世界の原点。
戦い続けた少年が見つけだすことの出来た、心の拠り所。
それは、世界のどんな歪みにも侵されるべきでない、温かで真っ白な、二人だけの永遠の時間なのだ。
11.05.27
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よくよく考えたらあまり書いたことのなかったライル視点でニール+刹那でした。
ライルは客観的に物事見れる、数少ない常識人の一人。笑。
刹那の想いの原点とかそういうものを考えたら、こういう形になりました。
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